第7話 決着
まさか、こんな事になろうとは・・・
誤算だ。(マジで何回も繰り返すが、数学は得意な方だ。)
さっき電話があって、親父とお袋殿は思いつきでニューヨークに行ったらしい。
あの2人らしい行動だ。
私には妹がいるが、留学中で今はオーストリアにいるはずだ。
故にメイド軍団を除けば・・・竜輔と2人きり!?(ドキドキ)
い、いや、落ち着け。今までだって2人きりの場面など数えられないくらいあった。
一昨日は、清原宅で一緒だったんだし・・・
「や、柳・・・さん?」
気絶から復活した竜輔が私を呼んだ。
「ん? 何だ?」
「やっぱ、悪いで・・・悪いヨ。俺今日は帰りま・・るヨ。」
日本語になってない。そこまできついのか、普通に喋るのが?
「ま、まぁ〜待てって。喋り方はもう五月蝿く言わんからいつも通りでOKだ。でも、せめて飯ぐらいはいいだろ? 帰りは車で遅らせるからさ。」
「はぁ。ならお言葉に甘えて・・・。」
なんとか抑えた。
今日中にさっきの続き(?)にケリをつけたい。
なんとかいつもの調子を取り戻しつつある俺。
なぜなら、たった今しゃべり方はどうでもいいとお許しが出たからだ。
それに、先ほどの脳内戦争はなんと悪魔側の勝利に終わった。
メイドの方々は夕飯作りの為、周りから消えている。この機を逃せば後はない。
そんなわけで、
「姐さん、目ぇ瞑ってください。」
「なななな何でだ?」
「いいからいいから、ささ、はやく!」
「こ、こうか?」
姐さんは目を閉じた。
そして俺は姐さんの唇に自分の唇を重ねた。
その間、5秒。
なんてムードのないと言われればそれまでだ。
でも、いいんだ。
「・・・いいい今なな何した?」
口元を押さえて姐さんが聞いてきた。
姐さん、鈍いです。
「さっきやりたかったやつですよ。」
「ささ、さっきっていつだ?」
「芹沢さんが割り込んできた直前にやろうとしてたことっすよ。」
真面目に答える俺って馬鹿?
「そ、そうか・・・ふぁーすと・・・これでよかったんだよな?」
「え!?」
「なんでもない。」
「!!!!っ」
始めは何が起きたかわからなかった。
気づいた時には姐さんの顔が視界一杯にあった事。
次に、口で息ができなかった事。そして、唇に柔らかい感触があった事。
コンドハネエサンカラデスカ!?
「・・・これで貸し借りナシな。」
貸し借りって何?
いや、そんなのどうでもいい。これで俺達は立派な恋仲・・・でいいのかな?
そのあと、食事の準備ができたという事で食堂へ向かう。
「おぉ、おいしそう!」
「この前が豪華過ぎただけで、いつもはこんな感じだ。」
並べてある物は普通だった。
ご飯、お吸い物、ハンバーグ、野菜。
確かに、普通の家庭では何処ででも目にする事ができるメニュー。
しかし、俺の家で見ることはまずない。
「いっただっきま〜す♪」
速攻でハンバーグを貪る俺。
こういうの貧乏性というのだろうか?
「おいおい、そんなに急いで食べることない
「あ〜、言わんこっちゃない。ほら、水飲めだろ?」
「だってこんな・・・ぶほっぶほっ」。」
言いながら、姐さんが背中を摩ってくれた。
「えっほっぶっほ(ゴクゴク)・・・ぷは〜た、助かった〜」
「・・・行儀悪いぞ。」
「き、気をつけます。」
それから他愛もない話をしながら食事を終えた。
そして、荷物を取りに一旦姐さんの部屋へ。
「さて、忘れ物は・・・ないな。 じゃあ、今日はこれで。」
「私も一緒に送ってく。」
俺と姐さんは車に乗り込んだ。
真っ暗な道を走っていく。
冬でもないのに車の中がやけに寒い。
「姐さん、別にわざわざ一緒に来てくれなくても・・・」
「好きでやってる事だから気にするな。」
「さいですか。」
竜輔に関して、前はもっと積極的だったのに、最近は控え目になったなと思った。
以前の私ならこんなに嬉しい事はないと思っていただろう。
でも今は違う。逆に腹立たしい。
・・・やっぱ男装してないとダメなのか?
そう思っているうちに車は竜輔の家に到着した。
「じゃあ姐さん、また明日。」
「あぁ、ちょっといいか?」
私も車から降りた。
「何っすか?」
「ちょっとこっち来い!」
竜輔を引っ張って車が見えないところまで連れてきた。
「やっぱり、これダメか?」
そう言って、髪をいじる。
「え!? どういう意味ですか?」
「いつもの調子でいてほしいし、顔ぉ見ずらいだろ?」
何を言っているんだ、私?
「あ〜・・・じゃあ、(ごにょごにょ)。」
「・・・は、正気か?」
「正気も正気、マジ本気っすよ。それならいけると思いますよ。」
「わ、わかった、校則に触れない程度に頑張る。けど、ウソとか言うのはナシだぞ!」
「は〜い。じゃあ、おやすみなさ〜い!」
竜輔が背を向けると、
「竜輔!」
「え?・・・んん!!」
本日3回目。
あ〜あ、初めての日に3回もやっちゃたよ。
「あ・・ああ・・・あははは・・。」
暗がりでよくわからないが、目の前の彼はかなり恥ずかしそうだ。
「おやすみ。」
私は早足で車に乗り込んだ。