第6話 ふぁーすと?
「リュウスケ、エイガデモミルカ?」
無機質な声で姐さんが聞いてきた。
「いいっすねぇ! 何があるんっすか?」
姐さんがテレビの下の台から一本のビデオテープを取り出す。
って、VHSですか?
姐さんの家はお金持ちだからDVDレコーダーが部屋に一台あってもおかしくないのになぁ〜。
タイトルは・・・
「何て読むんっすか?」
「うむ。私にもわからんのだ。気になってはいたのだが、なんだか気持ち悪くてな。
一緒に見てくれんか?」
ラベルに書いてある字は日本語でも英語でもなかった。
スワヒリ語的なインチキ臭い文字体なのは確かだ。
とりあえず、デッキに入れて再生してみる。
「なぁ、もしホラーだったら・・・やめていいか?」
姐さんってそういうのダメなんだ? やっぱ、女性っすね。
「はいはい、そんときは俺に抱きついてきてもいいっすよ。」
なんとかいつもの調子で言ってみる。
「・・・頼む。」
はい? 姐さん今なんて? もしかして満更でもない?(ドキドキ)
「あ、でも、えっちぃビデオだったらやめてもいいっすか?」
「な、なんでだ? 男のお前なら喜ぶとか・・・しない?」
「え〜と、多分その時点で姐・・・柳さんを襲っちゃいますよ、あはは・・」
ボケをかましたつもりだ。しかし、
「そ、そんときは・・・いいんじゃないか?」
・・・あ、あぁ、そういうことですか!
ついに姐さんもボケの世界にはまってしまったんですね?
そうですか、そうですか。
「何なら教えましょうか?」
「お、襲われ方か?」
・・・あなたが一生懸命なのはよくわかりました。百点とは言わず、千点差し上げますから今日はそこまでにしてください。いや、大胆な姐さんも素敵かもしれませんが・・・。
そう言ってるうちに、ビデオの中身が始まった。
真夜中の海に大きな船が一隻。
夜風にあたっているのか、女性が手すりにもたれて陰鬱な顔をしている。
・・・どうやらただの洋画のようだ。
「なんだぁ〜普通じゃないっすか〜。期待しちゃった俺が馬鹿みたい〜(はぁ〜)。」
「そうだな、がっかりだ・・・。」
え〜と、今日俺はいつもの調子に戻れそうではありますが、姐さんがおかしいです。
言ってる事全部がマジに聞こえるのは俺だけ?(ドキドキ)
洋画なんて久し振りな気がする。
たまにはいいか。
でも、なんかがっかりだな。
ここでちょっと刺激的なことがあれば・・・
な〜んて、甘いこと考えていた私が馬鹿だった。
どうやら、恋愛物らしい。
どうせ、親父かお袋殿の物がなにかの拍子に紛れ込んだのだろう。
しかし、ラベルは外国語だったのに日本語吹き替えなのが意味不明。
そして物語はクライマックスへ。
「ジュディ、一緒に来るんだ! 僕は君がいないと・・・」
「トニー、私は一緒には行けない。やっぱりお父様を放っておけないわ。」
「・・・・そうか、でもいつか向かいに来る! その時は結婚しよう。」
「えぇ、待ってるわ、トニー。」
2人は抱き合い、キスをした。
いつも思うのだが、こういうシーンは苦手だ。じっと見てるのが恥ずかしい。
思わず顔をそらすと竜輔も同じ事をして、私と見つめ合う形になってしまった。
「・・・・」
「・・・・」
なりゆきに任せて顔を近づけてみる。
頭の中は真っ白。目の前には竜輔の顔しか見えない。
同じく、竜輔もこちらに近づいてきた。
「りゅ、竜輔・・・・」
私は成り行きで目を閉じた。
唇が触れるか触れないかまで来た。
とその時、
トントンっ
「っ!!うあわわわ!!!」
「おわぁっ!!」
2人はお互いの後方に飛び退いた。
「いっつ〜、はい?」
「お嬢様、お茶をお持ちしました。」
芹沢さんが紅茶が乗ったお盆を持って中に入ってきた。
くそぉ〜、竜輔が来てから2時間以上は経っているというのに、今ごろお茶ですか?
図ったな、芹沢さん!
「あらあら、お2人とも何のお遊びをなさっているのですか?」
まぁ、疑問に思うのも無理はない。
私と竜輔は部屋の端と端にいて、壁にへばり付いている状態になっているからだ。
「あはは・・・気にせずに。」
「そうですか? では、ごゆっくり〜♪」
邪魔者退場。
映画はすでにスタッフロールが流れていた。
2人の間に気まずい空気が漂う。
ここのメイドさん達はご主人に親切じゃないな。
この前も思ったけど、謙虚さってのがない。
ここは気遣うだろ、普通!
あ〜あ、あれ逃したら今度はいつになるかわからなかったのになぁ〜。
失望感と絶望感でテンションダウン。
姐さん、俺はここまでのようです。
とその時、
『オメェ、情けねぇなぁ〜。愛しの姐さんなんだろ? ここは押し倒す勢いでいかなきゃ振り向いてくれないぜ? キスぐらいとっととやっちまえ!』
頭の中で角と羽が生えている悪魔が現れた。よく見ると顔は目つきの悪い俺。
『いけませんよ、姐さんを大事に思うのであれば、ここは謙虚にいけばいいのです。思い切った行動は後々良くない方向にいってしまい、挙句の果てには破局。ここは次の機会を待つべきです!』
白い羽を生やした天使も出現。こちらも例によって俺の顔、しかもキラキラ目。
『うるせぇ、お前なんてお呼びじゃねぇんだよ! 遅ければ取り返しのつかんことだってあるんだぞ!』
『そうやって急ぎすぎると足元をとられて取れる物も取れませんよ!』
脳内戦争勃発!
積極的で大胆な自分。
謙虚で確実派な自分。
さて、勝者は・・・・
プスプス
「お、おい、頭から煙出てるぞ。大丈夫か?」
フッ、ナニモカモモエツキタZE。(ガク)
通算100回目の気絶(失神も含む)達成!
来年ギネスに申請してやると心に誓う俺だった。