第8話 スクール・パニック(1)
翌朝。
「今日はなんかいつもと違うな。」
当然さ。姐さんと一緒に登校してないだもん。
「なんで?」
怖いから。
「いつも怖いけど・・・?」
そんなことはない。
「じゃあ、なんで今日は怖いんだ?」
・・・姐さんが来ればわかる。
「そか。」
うむ。
「して竜輔、何故に心中で言葉を発しておるのだ?」
聡の神通力とやらを試してみたくてな。
「・・・お前は姐さんにしか興味がないと思っていたんだけどな。」
気分だ。それに俺は姐さんにしか興味がないなんてのは誤解だ。
今日だって食堂の一日20食限定、“特選スパ定食”を食べるための作戦を練っているのだ。
「お、俺も狙ってんだけどな?」
そうか、ライバルだな。
「うっ、そういう事になるな。」
さて、今日は珍しく、クラスでは唯一の友である、斎藤聡と雑談している。
昨日、突発的な思いつきで姐さんに言った事が現実になりそうなので怖くて先に登校してきたというわけだ。いや、マジで採用されるとは思ってなかったんだもん。
え? どんな事を言ったんだって?
それは姐さんが来てからの・・・ってキタ―――――――――!!!
「よっ、おはようさん!」
きゃ〜〜〜〜!!
まだ見てないまだ見てない。
とっさに手で目を覆った。
「ん? どうした、竜輔?」
喋り方はいつも通りだ。
ドキドキ
手をどけてみる。目を開ける。
そこにいたのは・・・・
「ね、姐さん???」
「どした?」
「ははは・・・いつも通りっすね?」
「お、おう、いつも通りだ。何か問題でも〜?」
いや、別に男装してるってわけじゃない。
ちゃんとした女の格好だ。
髪も真っ直ぐのままで、染めてなどいない。
そう、いつも通りだ。
・・・前言撤回。あった、いつもと違うとこが。
「マジでやっちゃったんですね?」
「あはは・・・、ばれたか?」
そこは2箇所。
一つ、・・・スカートが異様に短いです。太もも半分は見えてますよ。
二つ、化粧をしておられます。ファンデーションと紅?
ここで解答です。
昨日言った事とは“ちょっとズレてる感じの女子高生になってくれれば”でした。
う〜む、我ながら抽象的過ぎる注文だったか??
「ど、どう?」
聞かないでプリーズ!!
注文した俺も俺だけどさ・・・・その・・・いや、やっぱ、
「いいっすよ! そのズレ具合は今日の俺を構成する栄養分になりますよ!」
自分で言うのもなんだが、変なボケ方したなと思う。
「・・・そ、そうか? 実は結構迷ったんだよなぁ〜。やっぱり髪は染めてきた方が良かったかな?」
「う〜ん、そのままでいいんじゃないっすか?」
「そうか、ならいい。」
「いや、よくねぇだろ?」
聡が横から入ってきた。
「氷見院って最近竜輔に振り回されてないか? いきなり女になるわ、竜輔が変になった時はやたら一生懸命だったし。んで、今日は化粧にミニスカ!? お前等一体どういう関係に昇格したんだよ?」
「「無論、“こういう関係”だ。」」
俺と姐さんは肩を組んで言った。
「い、いや、よくわかんねぇし・・・・まあ大体見当がついてるけどな。そうか、頑張れよ、お前等! ふっ。」
聡は前髪をかきあげながら教室から出て行く。
よく見たら額から汗が出ている。
「お〜い、聡。まさか・・・。」
「無論、保健室だ。」
親指を立てて、歯が光って見えたのは気のせい?
「・・・あいつ、また幻覚だとか幻聴だとかで保健室行ったのか?」
「そうなんじゃないっすか?」
暫く聡が去っていった方向を2人で見ていた。
「ねぇねぇ、清原君とはどういう関係なの?」
「もしかして、本当に付き合ってるの?」
「彼の気を引く為にそんな格好してるの?」
「キスとかしちゃった?」
「まさか、するとこまでいったとか?」
次の授業が体育だ。
故に今、更衣室にいるわけだが・・・察しの通り、クラスメイトから質問攻め。
まぁ、クラスにいる時はいつも竜輔と一緒にいるから気遣ってくれていたんだろうけど、ここでは女子のみだ。ここでしなかったらいつする!とでも言いたげなクラスメイトが寄ってたかって聞いてくる。
(ちなみに今までの体育はどうしていたかと言うと、たま〜にやるくらいでほとんどサボっていた。勿論、男子のとこで)
「えぇ〜と、まあ付き合っているのは事実・・・だけど・・・」
「きゃ〜〜〜〜、本当だったんだ? で?で?で?」
「え?」
「決まってるじゃない。キスとか・・・したの?」
言えるわけもない。
初めてした日に3回もしたなんて口が裂けても言えない。しかも昨日ときてる。
「し、してないしてない。結構あいつってば恥ずかしがりやの奥手だから、私がいっつも誘ってやらないとデートも出来ないっていうかその・・・。」
「でもぉ、前の彼って氷見院さんを口説きまくってたけどぉ?」
「ん〜〜、よくわかんない。付き合いだした時にはもうあんなのになっちゃってたし、よくわからないの。あはは・・・」
竜輔が健忘症から回復した時以来、かなり落ち着いている。
そして、それを見計らってか、竜輔を狙っている女子を数名知っている。
とその時、奥から1人の女子が出てくる。
「氷見院さん、私、清原君が好きなの! 絶対負けないんだから!!」
うわぁ〜、真打ち登場って奴? しかも、よくそんな恥ずかしい事を大声で言えるなぁ。ある意味羨ましいけど・・・。
彼女の名は岩倉京子(いわくら きょうこ)。そこそこ勉強はできたはずだけど、こんな性格だったかな? いつも暇な時間は読書してたりする文学少女って感じだったが・・・。
「あはは・・・お手柔らかに。」
テキトーに返事しておく。
「ちょっと、京子。何横取り目論んでるのよ! わ、私だってねぇ」
「そうよそうよ、私だってさぁ〜。」
うわぁ〜、あいつってばこんなに人気あるの??
次々と新たに発覚する竜輔を狙うクラスメイト。
波乱の予感が更衣室に充満していた。