第5話 英語訳にドッキドキ〜!
「・・・どうした?」
「いえ、別に・・・」
「・・・・」
「・・・・」
さっきからこんな調子だ。
あ〜も、俺はいつからこんなに弱気になってしまったんだろう。
今、俺と姐さんは両思い(?)ってやつだ。なのに何故に言い出せないんだ!?
前はひたすら大胆かつ積極的にアタックしてたのに・・・
現在、教室にて昼食をとっている。勿論、姐さんと一緒にだ。
姐さんがちゃんとした“女子の格好”をし始めた日(その日の記憶がかなりトビトビなのが気にかかるが)以来、なんか姐さんに話し掛けにくくなった。
これが普通なんだと言い聞かせるも、やっぱり、かあちゃんと似すぎている為か前より積極的になれない。そうか、髪の毛だ。髪型だけで人ってこんなにも変われるのか?
俺はただ明日、早く学校が終わるからデートに誘おうとしているだけなのに。
「・・・竜輔、どした? 熱でもあるなら早退したらどうだ?(ズズズ)」
「い、いえ、大丈夫ッス! 馬鹿は風邪をひかないでしょ?」
「まぁ、そうだな。(モグモグ)」
ははは、変わったな、俺。
「あ、そうだ。明日学校終わってから暇か?」
え!? 姐さんから誘ってくれた? ラッキー!
「は、はい〜! 暇で暇で困ってたんですYO!」
「なら、ウチ来るか?」
「はい! お供させていただきます。」
何故か敬礼してる俺。
姐さんは食べていた弁当を片付けながら俺を睨む。
「おい、いい加減に先輩と後輩みたいな喋り方ヤメロよな。」
「ははは・・・以後気をつけます。」
「“姐さん”言うのもナシだ!」
「はい・・・。」
これまたキツイな。
この喋り方、板についちゃって直しようがないんだもんな。
でも、久々(?)の怒った感じの顔も最高だ!
そんなことを考えながら明日が待ち遠しい俺だった。
翌日の午後。
誘った理由は気まぐれ。
ただ、やっぱりその・・・両思い?になったから一緒にいる時間を増やしたかっただけ。
まぁ、前の状態でも多すぎた気もするが・・・気にするな!
「ただいま〜!」
「お邪魔しま〜っす。」
メイドの諸君が迎えに来た。
「お帰りなさいませ、お嬢様。あら、今日は清原様もご一緒で?」
奥から初老?(と言っても40になったばかり)のメイドが出てきた。
私の身の回りのお世話を専門にしてくれる芹沢葉子(せりざわ ようこ)さんだ。
「え〜と、芹沢さん。後でこいつの分も持ってきてくださいな。」
「はい、わかりました。ふふふ」
何がおかしいのかわからんが、とりあえずさがっていく氷見院家メイド軍団。
「まぁ、とりあえずお・・・私の部屋に行くぞ。」
「は・・・じゃなかった、う、うん・・?」
何故か疑問系で答える竜輔。そんなに直すの難しいのか?
私も私で喋り方が曖昧だが・・・
そして、私の部屋に入る。
「まぁ、テキトーに座ってくれ。」
「う、うん。」
「・・・・」
「・・・・」
何、この沈黙は?
そういえば何するか考えもしなかった。
宿題でもやる?
馬鹿! 私もそんなに真面目じゃないし、こいつものってこんだろ!?
ううう、誤算だ。数学は得意な方だが・・・・
さて、どうする?
沈黙。
何、この空気は?
この前入った時とえらく違う。
大好きなネェ・・・や・・なぎさんの部屋。
小さなテレビ、一世代前のゲーム機、ビデオデッキ、机、ベッド、本があまり入っていない本棚。
“南京錠”や“チェーン”、“封印と書かれたお札”で厳重にロックされたクローゼット、サンドバッグ、10sのダンベル2個。
(((((ガクガクブルブル)))))
トレーニング機材はともかく、クローゼットの中には一体何が!?
あぁ〜も、そんなことはどうでもいい!
この状況を打開する手立ては・・・・・あれしかないな。
「や、柳・・・さん?」
「うひゃうお!! な、何だ?」
驚きすぎだ。驚いた顔もいいけど。
「え〜と、そのぉ〜・・・し、宿題をば教えていただけないかと・・・」
「お、おう、宿題だな? やろうやろう、まさかお前から勉強の話になるとはなぁ。」
とりあえずクリア!
とにかく、今日でた英語の長文和訳を教えてもらう事に。
「ふむふむ。ここはbe動詞がきてるから、受身の訳をするんだ。じゃあ、やってみ。」
「え〜と、“タケシはサヤカに抱きつかれた”・・・・!?」
ドキドキドキドキ
はっ俺なに想像してんだYO! 勉強に集中しろ!
「・・・・つ、つぎは?」
「え、えっと、ここは関係動名詞だから、主語を訳してここから後を・・・」
自然とヤナギさん(言いにくい)の肩があたる。
ドキドキドキドキ
馬鹿! 集中集中!!
やましいことなんて何もない。俺はただ勉強を教えてもらっているだけ!
「お〜い、聞いてるか?」
「は、はい! 大丈夫ッス。」
「じゃ、訳してみ。」
「え〜と・・・」
こんな具合でなんとかラスト一文。
「ここは長いけど、自分でやってみ。」
「・・・“彼は彼女に紛れもなく大人の作法でキ、キ、キキ・・・」
多分、訳自体は頭の中に思い浮かんでいるのであっているのだろう。
でも・・・ドキドキドキドキ
言えるかぁ〜〜〜〜〜!!!
助けを求めるように姐さんの顔を見てしまう。
姐さんはなんだか恥ずかしそうに明後日の方向を見ている。
オォ、カミヨ! アナタハワタシヲミステタノデスカ?
「ど、どうしたんだよ? は、はやく訳せ!」
うひ〜、そんな無茶な。
あ〜もダメだ。これ言ってしまうと俺が俺で無くなっちまいそうだ!
誤算だ。(さっきも言ったが、数学はできる方だ。)
まさかこんな過去問ごときに落とし穴があったとは・・・
竜輔も竜輔で何躊躇ってんだYO!
たかが英文だろ!? 噛み付いてこないからとっとと終わらせろ!
「や、ヤナギサン・・・」
「う・・・な、なんだよ?」
「ヤメマセンカ?」
逃げたな。だが、退くことも勇気だ! この場合、君のその判断は私を救った。
英雄だ! ではご褒美に私の熱いキ・・・・
右手で思いっきり自分の頬をはたいた。
何考えてんだYO! 馬鹿か? こんな時にしてしまったら・・・その・・・
「ドウカシマシタカ?」
無機質な声をだしてこっちを見ている。
「イヤ、ナンデモナイ。」
真似して誤魔化してみた。
「・・・・」
「・・・・」
再び沈黙。
「あのさ〜」「え〜と・・・」
声がハモった。
「「あぁ、そちらからで・・・」」
「・・・・」
「・・・・」
「「ぷっ!」」
2人して笑い出す。
「姐さん、さっきからおかしいですよ?」
「うるさい、お前もだろ!? って姐さん言うな、敬語も禁止!」
堂々巡りだ。
このままどうやって行動に出せばよいやら・・・