第2話 優しさが招いた悲劇!?
「よう、竜輔!・・・って誰よ、その美人さんは? しかも手なんか繋いじゃって。」
教室に入ると斎藤が竜輔に挨拶してから、予想通りの質問を投げかける。
竜輔は物言いたげな表情で私を見る。
まるで、新しい学校に転入してきた小学生のようだ。
はぁ〜、こいつってこんなに可愛い顔してたんだな。
苦笑いしながら、クラスメイトの質問に私が答える。
「斎藤、俺だよ、氷見院だ。」
「・・・・氷見院? わ、わりぃ、俺どうやら幻覚見えてるらしい。保健室行って来る。」
斎藤は頭を押さえながら教室を出て行った。
まぁ、予想通りのリアクションだわな。
「え、氷見院君?」
「うっそ〜、氷見院君って女だったの?」
「○マだろ?」
「いやいや、むしろコスプレ?」
「なんか綺麗な顔してるとは思っていたけど・・・。」
「俺・・・なんか惚れちまった。」
好き勝手なこと言ってくれるとこも想定の範囲内だ。
「あぁ、やっぱりこんなことに・・・みなさーん、とりあえず席に着いてくださ〜い。」
HRにはまだ早いというのに、土方先生が入ってきた。
事情を説明しに来てくれたんだろう。
クラスメイトは座席に戻る。
私もつこうとしたその時、
「ん? 離せよ。」
「・・・いや。」
竜輔は繋いでいた手を離そうとしない。
「ちょ、先生来ちまっただろ? お前も席つけよ!」
「いや!」
竜輔は私の手を両手で更に強く握ってきた。
「学校までって約束だろ?」
「い〜や〜。」
口調がいつもより幼い。
まるで駄々をこねてる子供だ。
「どうしました、氷見院さん?」
「あ、あの〜、清原君が手を離してくれないんです。」
先生は不思議そうに竜輔に近づく。
「清原君? どうしましたぁ?」
「かあちゃん、この人だあれ?」
は!? おいおい、冗談は止めてたもれぇ〜!!
「おい、どうしたんだよ? 竜輔! 先生だろ、土方先生だ。」
「????ひじたせんちぇい?」
「おい、どうしたんだよ、清原!?」
「清原君、かわいいのはいいけど、今は先生が・・・」
「だあれ?だあれ?かあちゃん、ぽんぽんへったぁ〜。」
はぁ!? ぽんぽんへったぁ〜?
「・・・氷見院さん、とりあえず保健室に!」
「はい!」
先生に促されるまま保健室に竜輔を連れて行く。
「う〜ん、たぶん〜古傷を押さえていた枷が突発的に外れちゃってぇ〜記憶が浮き出しちゃったって感じかしらぁ〜。」
「記憶がね〜。」
「暫くすれば治ると思うんだけどぉ〜、今日中に治るかどうかと聞かれるとぉ自信ないわねぇ。」
分厚い辞書(?)を手にしながら渡辺先生は困った顔をする。
「“健忘症”だと思うんだけどぉ〜・・・何か頭を強く打ったとかぁ〜、かなりのショックを与えたとかって見覚えあるぅ?」
せ、先生、私は“いつも”こいつをボコってます。ゆえに一つ目はありえません。
しかし・・・二つ目は覚えがあるような気がします。
しかも、決定打は勿論自分です。
冷汗をかく。
まさか、突発的に思いついた事をしでかしたらここまで威力を発揮するとは・・・。
でも、相当追い詰められてたんだろうなぁ。
今、竜輔はベッドに寝ている。(隣では、うなされている斎藤がいたりする。)
疲れて寝たんだろう。
・・・はっきり言います。メチャクチャ可愛いです。顔だけ!
このまま抱きしめて持って帰りたい衝動に駆られています。
誰か助けてくださ〜い!
「う〜ん、でもぉいつもと違って可愛いわねぇ。私の子供にしちゃおうかしらぁ?」
「・・・先生、ここにいられなくなりますよ?」
「や、やあね、冗談よぉん♪ でも、早いとこ旦那にせがんで子供作らなきゃ!」
この先生の言う事は冗談には聞こえない所が怖いな。
はぁ〜、“かあちゃん”か・・・。
そういえば、私は幼い頃、お袋殿のことを何と呼んでいたのだろう?
兄貴との思い出しか蘇らない。そこまで一途だったのだろうか?
「んん〜。かあちゃん、ポンポンへったぁ〜」
「ぽんぽん?」
「へった〜??」
竜輔は突然起き上がり、私にせがんできた。
渡辺先生は大ウケしている。
「あはははは〜、ポンポン。いいわぁ〜何が食べたいでちゅかぁ〜??」
「かあちゃん、このひとだあれ?」
「あぁ、この人はね・・・。」
うんざりだ。いくら可愛いとはいえ、体は高校生。
最近はどうだか知らないが、始めて会った頃は自分と同等に渡り合えるほど喧嘩が強かったはずだ。それが今では・・・
とりあえず、渡辺先生の弁当を少し貰って竜輔にあげた。
そして、おなかいっぱいになったのかまた寝始めた。
「ふぅ〜、何か疲れますね。」
「そぉ? 子育ての予行練習には丁度いいと思うけどぉ?」
「・・・なら、あとはよろしくお願いしますね。」
私は保健室をあとにした。
そのあと、私がいないことに大泣きした竜輔をなだめる為に渡辺先生が苦労したのは言うまでもない。