第1話 母ちゃん
翌朝。
俺は今日も愛しのマイスィートハニーの姐さんが出てくるのを待っていた。
そう、俺は今、氷見院家の前にいる。
俺の家から歩いて1時間くらい離れた所にある氷見院家の館だが、俺は全然遠いと思った事がない。これって愛の成せる技っていうのかな?
毎朝、6:30頃に家を出て、そこから姐さんの事を考えているだけで1時間など俺にとっては20分くらいにしか感じない。
ちなみにチャリは絶対使わない。理由は・・・言わんでもわかるだろ?
さあて、7:35。そろそろ姐さんが出てきても・・・
「おはよ。」
「・・・・」
「ん? どうした?」
「か、かあちゃん・・・・」
今日は・・・なんだそのー・・・イメチェン?
ボサボサの髪を真っ直ぐに下ろして、“普通の女子の制服”を着てみた。
そして、昨日、美佳さんから借りた写真と鏡に映る自分と見比べてみる。
「・・・確かに似てるかも・・・」
写真に写っていたのは“竜輔”と美佳さん。そして、大人の女性。
竜輔のお母さん、朋代さんだ。
少し釣り気味な目、耳が隠れる程度のショートヘアー。
活発的な容姿だが、どこか優しさが感じられる。
『竜輔のお母さんの生き写しみたいだね。』
美佳さんにはそう言われた。写真を見せてもらい少しびっくりした。
何か似てる。
朋代さんは竜輔が小2の時に病気で亡くなったらしい。
それから心を閉ざしてしまった竜輔を美佳さんは一生懸命努力して今の状態にしたという。
『まぁ、私はきっかけを作ったくらいなんだけどね。』
それでもすごいことだ。
窓の外を見る。あいつはもう下で待っていた。
「さて、行きますか。」
学校には事情を話してある。あとはクラスメイトだな。変なこと言われなきゃいいが・・・。
気合だ!! 気合で乗り切る!
そして外に出た。
「おはよ。」
“そいつ”に短く挨拶した。
「か、かあちゃ〜ん。」
俺はお構いなしに“それ”に抱きつく。
「お、おい、抱きつくな。落ち着け!」
「ううう、かあちゃん、かあちゃん、会いたかった。」
暖かい温もりが懐かしかった。
気の強い声が懐かしかった。
暫くして、背中に優しく手が回された。
涙が止まらない。
5分ほど経過した。
「さぁ、学校行くぞ。遅刻しちゃうだろ?」
「・・・うん。(ぐすん)」
俺は“かあちゃん”と手を繋いで学校へ向かう。
途中、“かあちゃん”の方を見ると、優しく笑ってくれた。
俺も自然と笑う。
そして、学校に着いた。