12話 ラーメン屋の幼馴染み

 

 

 

 

あ〜、姐さん、今日は一段と美しい。

 

ダンスゲームは一流、容姿も一流。最高だ。もう俺、死んでもいい。

 

「・・・目が“はあと”になってるぞ!」

 

「う〜ん、姐さんにメロメロぉ〜。」

 

「はぁ〜・・・腹減ったから飯にするか?」

 

「はいぃ〜。」

 

姐さんに促されるまま、側にあった“ラーメン屋”に入った。

 

「いらっしゃいませ〜。 って、竜輔じゃない? 休みの日に来るなんて珍しいわね。」

 

しまった、誤算だ。ふらっと寄った店がよりにもよって「木城式」〜?

 

まずい、いや・・・これはいい機会だ。ここで俺と姐さんのラブラブ振りを見せ付けてやるぅ。

 

「そちらの方はぁ? はじめまして。」

 

美佳は姐さんを見る。

 

「あぁ、聞いて驚け、この方は俺のカノジブハっ!」

 

「はじめまして。この馬鹿の言う事は気にしなくてもいいから。お・・・私は氷見院柳。

 

心配しなくてもただの“お友達”だから!」

 

愛の鉄槌を腹に受けて意識が吹っ飛ぶ俺だった。

 

 

 

「はい、ラーメン2つお待ちどうさま〜!」

 

美佳さんが注文した醤油ラーメンを持ってきた。

 

「あ、ありがと、美佳・・・うう、腹が・・・今日はなんか堪えるな。」

 

復活した馬鹿が腹を押さえながら答えた。

 

「全く、人前で余計な事を言うからだろ?」

 

「あはは、お二人は仲いいんですね?」

 

「何処が!」

 

吐き捨てるように私は言った。

 

「・・・なんか氷見院さんって男って感じですね。あ、御免なさい。悪気はないんですよ。」

 

美佳さんが私を見て呟く。

 

「あぁ、一応男っぽくしてるつもりだから、気にしないで。(ズルズル)」

 

ラーメンを食べながら答える。

 

「そうなんですか・・・。ちょっと竜輔! 伸びちゃうわよ!?」

 

「ふぇ〜い。(ジュルジュ)」

 

この光景・・・なんか違和感がない。絵になっている。

 

ダメ夫と真面目な妻。

 

ここまで似合っていると自分が孤立しているように感じる。

 

馬鹿の側にいるのは私ではなく・・・彼女・・・

 

はっ、何1人で考え込んでいるんだ!?

 

てか、何これ?嫉妬? 馬鹿馬鹿しいにも程がある。

 

私は・・・この馬鹿とはクラスメイトで付きまとわれてる不幸な女。

 

そうだ、何を迷う必要がある! それ以外に何があるというのだ!

 

ちょっと伸び気味のラーメンを平らげ、コップの水を一気に飲み干した。

 

 

 

「おいしかった♪ 美佳ぁ、昔の馴染みでまけてぇ〜な。」

 

「い・や!」

 

冷たいなぁ。それでも久し振りに会った幼馴染みに対する態度?

 

俺は財布を渋々取り出す。

 

「あ、ちょっといい、氷見院さん?」

 

「え、お、私?」

 

美佳は姐さんを連れ出し、店の奥に消えた。

 

むむむ、まさか美佳の奴、俺の姐さんを・・・いやいや考えすぎだ、落ち着け俺!

 

 

 

「ねぇ、氷見院さんと竜輔は付き合ってるの?」

 

「ぶっ!!! そ、そんなわけないじゃない。」

 

私はいつの間にか女言葉になっていた。

 

「ふぅ〜ん、じゃあ何で一緒なの?」

 

それは話せば長くなる。というわけで話を逸らしてみる。

 

「美佳さんはあの馬鹿が好きなの?」

 

「え!? あはは、面白い事言うのねぇ。そうだな〜、昔ちょっと付き合ってたかな?」

 

やっぱりそういう関係だったんだ・・・

 

「でもぉ、昔のことだよぉ? 最近は会いに来るのも少なくなってきてるし。」

 

「昔のあいつってどんなんだった?」

 

ちょいと疑問に思っていた事もついでに聞いてみた。

 

「ん〜〜、頼りなくはあったけど、優しくはあったかな? でも、私がいなきゃ何も出来なくてさ。」

 

あの馬鹿がねぇ・・・

 

「氷見院さんって、もしかして口説かれた?」

 

「う、うん。それで今困ってる。」

 

「・・・竜輔はいいやつだよ。優しくしてあげれば本当にいい奴だから、かまってやって。

あいつはさ・・・」

 

そして、美佳さんの口から衝撃的な事実を聞いた私は凍りついた。

 

 

 

「あ、美佳! 俺の姐さんに変な事してないだろうな?」

 

「大丈夫! ちょっと仲良くしてただけだもん。ねぇ?」

 

美佳は姐さんに相づちをうつ。

 

「・・・うん。」

 

怪しい。解釈の仕方ではかなり“あっち”方面な取り方もできるぞ。

 

それに、なんだか姐さんの元気がない。

 

「じゃぁ、氷見院さんの分だけナシにしてあげる! あんたの分は払いなさいね!」

 

「ふぇい。」

 

木城式醤油ラーメン650円を支払う。

 

「何回も言うけど、月に一度は必ず顔だしなさいよ。」

 

「おう、また来るよ。」

 

美佳にテキトウに返事をして姐さんと店を出た。

 

 

 

 

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