11話 DSMに新たな伝説

 

 

 

 

お車、お車、わぁ〜い、わぁ〜い♪

 

幼稚園児ヨロシク的な歌(?)を心の中で口ずさみながら横に座っている姐さんを見る。

 

怒っているかと思えば、そんなこともないらしい。

 

ただ、何か不機嫌なのは間違いなさそう。

 

ちなみに男装ではなく、ちゃんとした女性の格好をしておられます。

 

しかし、俺は服に詳しくないので、○ーコのようにファッションチェックが出来ないのが残念!

 

「一応言っておくが、デートのつもりはないからな?」

 

「・・・姐さん、今日はどちらへ?」

 

「話をそらすな! ったく・・・お前は何処に行きたいんだ?」

 

意外や意外。まさかあの姐さんが俺に意見を求めてくるなんて・・・。

 

「あ、えっと、そうですね〜。姐さんってゲーセン行きます?」

 

馬鹿だ。こんなボケをかますなんて、なんて俺らしくないのだろう?

 

まさか・・・緊張してる? でもゲーセンは流石にナシだろ!?

 

「ん。いいな、ゲーセン。行くか!」

 

マジですか!? マジで採用されちゃったよ。

 

「久々にストレス解消できるしな!」

 

あぁ〜そういうことですか。ってことはあれですか? パンチングマシーンとかですか? 一気にMAXでぶっ飛ばしますか、姐さん??

 

「しばらく行ってないし、新しいの入ってるだろうなぁ。」

 

「はい、きっと入ってますよ。姐さんは何をなさるんすか?」

 

「川端さん、日の出町のゲーセンまでヨロシク! そうだなぁ・・・やっぱあれだろ?」

 

 

 

「あぁ、それですか・・・」

 

姐さんが着くに早々向かった先はダンスゲームだった。

 

画面に出てくる矢印をタイミングよく床のパネルで踏むんでいくという、一昔流行っていたDSM(Dance Step Master)だ。

 

「さて、早速・・・と。」

 

ポケットから何かを取り出した。

 

「・・・姐さん、それは?」

 

「ん? “メモリーカード”だが? 見ればわかんだろ?」

 

これまた一昔に主流だったゲーム機のメモリーカードだった。

 

そうか、姐さんの家は一世代遅れているんすね・・・

 

それを差し込むと、プレイした曲が記録されて、家庭ゲーム機でも遊べるらしいのだが・・・

 

「姐さん、今それって対応してるんすか?」

 

「ん? 差込口には入るけど?」

 

姐さん、今のゲーム機と前のゲーム機のスロットの大きさは一緒ですよ・・・

 

てか、今日の俺はツッコミ係っすか? 姐さんって天然だったんですか??

 

コインを入れて選曲し始めた姐さん。

 

どうやら一番妥当(?)なレベル5、“Ganash D”を選んだようだ。

 

「さて、やりますか!」

 

曲が始まり、華麗に足を動かしていく。姐さん素敵だ〜〜!!

 

んで、終了。ランクは・・・Sぅ!? さすがっす!

 

「おい、ネェちゃん。俺とやらねえか?」

 

終わると同時にガラの悪そうな男が絡んできた。

 

肌がどす黒く、耳にピアスを3個付けてるいかにも不良って感じだ。

 

うわっ、姐さんのピンチ!助け・・・に行かんでもいいか。

 

「ん? あんた強いのか?」

 

「へっ、強気なネェちゃんじゃねえか? おっし、賭けるか! 俺が勝ったら今日一日付き合ってもらうぜ?」

 

「じゃぁ、俺が勝ったら・・・そうだなぁ全裸でこのゲーセン一週・・・いや、2週しろ!」

 

それに切れ気味になったヤンキー男は、

 

「じょ、上等だぁー!」

 

拳を作って叫んだ。

 

いや、ちょっと待ってよ! 姐さんが負けたら俺どうなんの?

 

「おっし、んじゃこれな。」

 

そんなことは露知らず、姐さんが選曲したのは、“Parallel 300”。レベルは・・・ぶっ!!

 

MAXの8!?

 

姐さ〜ん、やめてけろ! それってばアーケードゲームの覇者、“AGE”でも最後までいかなかった曲っすよ? 何年かブランクがある姐さんじゃ無理ですってば!

 

「・・・大きくでたな。ま、最後までいかなくてもスコアで決まるからいいがな。」

 

ヤンキー男は引きつった顔で言う。

 

プレッシャーの問題ですな、こりゃ。

 

曲が始まる。

 

始めはたいした事もなかったが、どんどんハードになってくる。

 

そして、目を疑った。全方向の矢印が連続で出てきたのだ。

 

おぉ、我が敬愛する神よ、どうか姐さんをお救いください。

 

胸の前で十字を切る俺。

 

ヤンキー男はそれを→と↓を足で踏んで、←と↑を体を前に倒して両手で押さえる。

 

なんて奴・・・って姐さんも!? 今日の姐さんはスカート! そんなことしたら姐さんのパンブハっ!!

 

 

 

「つっ、キツイな。」

 

私は半年ぶりにするだけあって流石に体が堪えてきた。

 

さっきの全方向ステップだってあの男の見てなきゃ見逃してた。

 

こんな男の言いなりになんてなってやるものか!

 

昔から自分のこの顔が憎い。いつもいつも変な野郎が寄ってたかっては誘ってくる。

 

お袋殿! あなたの遺伝子、私はとても嫌いです。

 

テンポがどんどん加速していく。

 

おっし、ここで挽回!

 

一方向の連続。タイミングをずらすと大きく減点されるとこだが、生憎私は得意だ。

 

そして、曲が終わった・・・。

 

「う、うおぉぉぉ〜〜〜!!」

 

後ろからいつの間にか集まった野次馬から歓声があがる。

 

「ん? ってあれ? だらしねぇ奴。」

 

絡んできた男はその場で失神していた。画面にはゲームオーバーの文字が・・・

 

自分の判定は・・・

 

「ちっ、Bか・・・。」

 

残念だ、Aはいけると思っていたんだがな。まぁ、勝てたからいいけど・・・

 

「ね、姐しゃん、流石です。 世界記録ですよ! “Parallel 300”最後までできたのは姐さんがはじめてっすよ!」

 

「ん? あぁそう。」

 

何故か鼻血を出ている馬鹿は大ハシャギしていた。

 

いまいち言ってる事がわからないが、すごいらしいな、Bで。

 

まぁ、記録らしいから、ランキングのAGEの上にYNG(YaNaGi)と刻んでやった。

 

 

 

 

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