第10話 Holiday’s morning
体が妙に暖かい。
たしか今は春と夏の間だったか?
「ん・・・」
私は寝返りをうった。
何か柔らかい物に当たる。
「・・・」
何の気なしにそれに抱きついてみる。
暖かい。
もっと強く抱きついてみる。
程よい固さだ。
耳元で風が吹くような音がした。
「すぅすぅすぅ」
規則正しい呼吸音のようだ。
始めは自分の寝息のように思えたが、自分の寝息が聞こえるなんておかしい。
目を薄っすらと開ける。
抱きついている物に妨げられて部屋の景色が見えない。
「・・・何これ?」
指で突いてみる。
「ん・・・うん・・・・」
「うひゃうお!!」
裏返った悲鳴をあげてしまった。
声がした!?
しかもどこかで聞いたことがあるようなないような・・・
体を起こす。
横を見る。
黒い物が見える。髪の毛のようだ。
掛け布団を取ってみる。
すぐにかけ直した。
額やら背中に冷汗がふきだす。
「え・・・・っと・・・」
何をすればいいか考える。
自分はあの後、大変な過ちを犯してしまったのではないか!?
「あっ、そうだ!」
とりあえず自分が服を着ているか確認した。
どうやら着ているものは着ているようだ。さっき見たものも多分着ていた・・・と思う。
心臓がはちきれんばかりに暴れている。
何故だ!? Why? 私に一体何があった!?
恐る恐るもう一度布団を剥がしてみる。
そして、そこに奴はいた。
腹に蹴りを入れて起こす。
「ぶほっ、えほぐへぇ・・・ね、ねぇしゃん? ぐっも〜にん・・・・」
「てめぇ、いつからここで寝てた?」
「ネてタぁ? なにいってんでしかぁ? 夕べからにきみゃって」
どうやらまだ寝ぼけているようだ。
「ここは、俺のベッドだ!! てめぇがここで寝る権利はねぇんだよ! 出てけ、この変態、ボケ、死ねぇぇ〜〜〜〜〜!」
馬鹿をベッドから蹴り落とした。
「ぐほ、ぶ、べば・・・・」
しかし、そのまま床で気持ちよさそうに寝始める馬鹿。
17年生きてきて最悪の朝になってしまった。
昨日、新技を使ったら馬鹿はそのまま目を覚まさず、自分のベッドに寝かせ、それを忘れて自分もベッドに寝てしまった事に気づいたのは馬鹿が起きてからだった。
「う〜ん、なんか体中が痛い。」
昨夜、姐さんの新・愛の鉄槌、『メガトンダイナマイトグレイトぉ』をくらってからの記憶がなく、気づけば朝。
どうやら姐さんの家にそのまま泊まらせて頂く形になってしまったようだ。
くそぉ〜、惜しい事したぜ。
「おはようございます。夕べはいかがでした? ふふふ。」
氷見院家のメイドさん達に廊下で擦れ違い座間に聞かれる。しかもクスクスという笑いつきにだ。普通は「よく眠れました?」って聞くんだろうけど、ここは少し変わっている。
姐さんに聞いても睨んでくるだけで、ちっとも教えてくれない。
俺が一体何をした!?
いやまぁ、姐さんの鬼のような形相も好きだけどさ・・・
あ〜あ、私とした事がとんだミスをしてしまった。
この馬鹿とベッドを共有していたかと思うと・・・あれ? なんか胸にポッカリと穴が空いたような気分がするんだけど?
不思議だ。馬鹿より自分に怒りを感じている。
それに、メイドの諸君はニヤけた目でこちらを見ている。
絶対、親父やお袋殿にも聞かれるに違いない。
毎度思うが、馬鹿に意識がなかった事だけは不幸中の幸いだった。
そして、食堂に着く。
「して、今日はどうするのかね?」
お父様が朝食の席で聞いてくる。
「はぁ、特に予定はありませんが・・・」
今日は休みだ。
このまま帰ったって、する事ない。
親父は海外出張で明後日まで帰ってこないし・・・
故に姐さんといれれば今日はぼぅーっとしていてもいいくらいだ。というかそれを望む。
「だったら、街に行ってきたらどうかしら? そうよ、それがいいわ!」
お母様が提案してくる。
That’s good idea!
姐さんのほうに視線を向ける。
「・・・わかりました。行ってまいります。」
姐さんが答える。
「うむ。では、私達は私達で久々に行くか?」
「えぇ、いいですね。昔を思い出しますわ!」
お父様とお母様もデートをするらしい。
いいな〜、俺もいつかは姐さんとそんな会話がしてみたいものだ。
そういうわけで、今日は姐さんとおデート!
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