第8話 ご対め〜ん♪
コンコン
私はドアをノックする。
この部屋はマイ親父の書斎。
「お父様、連れてまいりました。」
「ん、通せ。」
中からドスの効いた声で返事があった。
ドアを開けて、馬鹿と一緒に入る。
「ほぉ、彼が・・・お前の“カレ”か?」
顎に蓄えた髭をなぞりながら、親父は馬鹿を見る。
氷見院頑九郎(がんくろう)。これが親父の名だ。
「はい、え〜と・・・」
しまった! いつも馬鹿とか言ってるから名前は出てきても苗字が出てこない。
誤算だ。ええい、仕方ない。
「さ、さぁ、自己紹介を・・・。」
冷汗混じりに馬鹿を促す。
馬鹿も緊張しているのだろう。完全にカチコチ状態。
暫くして、ようやくこちらの言っている事に気づいたのか、
「は、ハジメマシテ、清原竜“之”輔デス。」
馬鹿。かなり馬鹿だ。というより究極馬鹿だ。一体どうやったら世界に自分の名前を間違える奴がいるだろうか?(ここにいたりするが)背中やら額に変な汗をかいてしまったではないか。
「や、やあだぁ〜、竜輔さんたら、竜之輔じゃなくて、竜輔でしょ?」
「・・・ア、ソウデシタ。」
まさにロボットだな。
まぁ、逆に緊張している方がマジで見られるからいいけど・・・っていいのか!?
「ふむ、そう緊張せずとも。まぁ、座りなさい。」
親父がソファーに座るように促す。
とりあえず座るが、相変わらず馬鹿は固まったままだ。
「それで、柳とはいつ頃からの付き合いなのだね?」
「えっと、去年の秋頃だったわよねぇ、竜輔さん?」
親父は私を見て、
「柳よ、少し彼と喋らせてはくれないか?」
「・・・はい。」
この状況で、私のフォローなしにどこまで“普通”にできるかが問題だ。
ましてや、今はこの馬鹿だ。余計なこと言わなきゃいいが・・・。
「そうだな。柳のどのような所に惹かれたのかね?」
「・・・て、手デス。あと、顔も・・・。」
「ほお、外見か・・・。」
馬鹿。もっと普通に言えないのか!?
ほら、優しくして貰った〜とか・・・そんなこと微塵にも思わんだろうな。
そうして、いろいろ質問を受けてなんとか答えていく馬鹿。
「そうかそうか。そんな事があったのか、ハハハ。」
親父はなんかこの馬鹿を気に入りはじめているような気がする。
「そ、そうですね、あの時は本当に楽しかったですぅ。」
徐々に緊張の糸が解けていく馬鹿も馬鹿だが・・・。
「さて、話がずれてしまったが・・・柳よ、本当に彼を愛しているのかね?」
「はぁ、はぁい!?」
突然聞かれた為か、声が裏返ってしまった。
「私はお前達が本当に愛し合っていると言うのなら、うるさい事は言わんつもりだ。
だが、そのだな・・・証を見せて欲しいのだよ。」
えぇと、それはもしや・・・
「せ、接吻・・・ですか?」
「うむ、察しがいいな。そのとおりだ。」
はぁ!? マジですか!? 親父殿、あなたは正気ですか!?
この馬鹿と・・・キッスをせよを言うのですか!?
あの〜、馬鹿が移るとか、学校で冷やかされるってレベルじゃないですよ!
しかも、ちゃんとしたやつはしたことないですよ?
「何を慌てておる? まさか、まだしとらんのか?」
「あ、あの・・・えっと・・・」
「何を仰いますか、お父様! 男・清原竜輔、ねえ・・・柳さんと愛し合っている男として何の躊躇いもございません! さぁ。」
とかなんとか言っちゃって、私の肩を掴んで引き寄せてくる馬鹿。
って、何冷静に解説しちゃってんだYO! このままでは私のふぁ〜すとが!
馬鹿の顔がどんどん近づいてくる。
まずい、このまま張り倒すか? いや、この場でそれをするのは自殺行為だ。
何のために恥を忍んでこいつを連れてきたのかわからん。
てか、馬鹿はすでに目まで閉じちゃってるし!
ええい、もうどうにでもなれぇ!
私は覚悟を決めて、馬鹿が来る前に自分から突っ込んでいった。
しかし、次の瞬間、
ゴツン!
ガタっ!
「うわっ!」
「うお!」
「・・・・・」
何が起きたかわからなかった。
とにかく、私の唇に馬鹿の唇が付いていなかったのは確かだ。
目を開く。
馬鹿の姿はない。
「あれ?」
私はソファーに座っている。
馬鹿の姿はない。姿はない、姿は・・・あった!って、え!?
馬鹿は向こう側の親父が座っていたはずの席に突っ込んでいた。
そして、親父が座っていたソファーは向こう側に倒れていた。
私は立ち上がる。
そして見たものは!
「おぉ〜、ジーザス。」
それが私の感想。
え〜と、皆さんは何が起こったかわかりましたでしょうか?
正解は・・・“馬鹿が親父を押し倒していた”でした。
ってえ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!