第7話 いざ、馬鹿と我が家へ
「いいか、俺はここから普通の女になるからな。笑うんじゃねえぞ?」
「・・・はい。」
「一応っておくが、“お嬢さんをください”って言うんじゃねえぞ?」
「・・・はい。」
「お、親父に喧嘩売るなよ?」
「・・・はい。」
今、私、氷見院柳は車に乗っている。行き先は我が家である。
目的は・・・第5章を見ておさらいしていただければ結構。
隣に座っているのは、いつも私のことを“姐さん”だのと呼ぶ馬鹿。
この馬鹿の家に迎えに行って、我が家へと向かっているというわけだ。
しかし、馬鹿はいつにもまして大人しい。
いつもこうなら、もっと友好的に扱えるのに・・・
「あ、そうだ、言い忘れてた。俺の事、姐さんって呼ぶなよ? それだけは絶対やめれ!」
「・・・はい。」
「・・・どうしたお前? 今日はいつもより大人しい、というか別人だなぁ? 明日は雪でも降るのかいな?」
「・・・はい。」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
何なんだ、この沈黙。そして、どうしたんだ馬鹿?
いつものテンションじゃないとこっちが緊張する。
ん? あぁ、そうことか! こいつってば緊張してるんだな。
へぇ、こんな馬鹿でも緊張するんだぁ?
「ま、まぁ、気軽に構えてりゃいいじゃないか? 別にこれから殺されるわけでもないしな、そうだろ? 何とか言ってくれぇ〜〜!!」
「ね、姐さん・・・。」
「おぉ、何だ? なんでも言ってくれ! 俺ができることなら何でもしてやるぞ! 今日だけな。」
「おしっこ・・・。」
目に涙を浮かべて懇願するようにこちらを見る馬鹿。うわっ、なんか胸がキュンってなったぞ。メチャメチャかわい・・・
って、
「・・・はい!? マジ!? そりゃマズイ! 川端さん、今すぐトイレのある場所まで宜しく!」
「は、はい!」
運転手の川端さんは焦りながら一気にスピードを上げる。
そして、
「あぁ、すっきりしたぁ〜♪ 間一髪だったぁ〜。」
「・・・・・・」
「ご、ごめんなさい、姐さん。家のトイレ壊れてたもんで、朝いけなかったんですよぉ。」
「これからは気を付けなさいね。」
「・・・ね、姐さん、明日は雪でも降るんでしょうか?」
「さっき言った事聞いてなかったの?」
「あぁ、そうでした。って、なんか違和感が。いつもは姐さんの愛の鉄槌が来るはずなのに、今日に限ってない! これじゃあ生殺しだぁ〜。」
泣き叫ぶ馬鹿。調子に乗って口説いてくるかと思ったが、そういう様子もない。これから学校ではこうしてればいいのかな?
「さぁ、はやく車に乗りなさい。お父様が待っているんだから。」
「あいぃ。今行きまーす。」
こちらに走って来る馬鹿の姿はいつもと違って、可愛い弟のような感じがした。
着ているものはこちらが貸したタキシードみたいな黒いスーツ。
かっこ良くなるかなと思ったら、どちらかと言えば幼い感じになった。
ちなみに私は薄い青色のワンピース。微妙にゴスロリ風なのが欠点だ。
髪はボサボサのまま放置している。
車が発信する。
竜輔の家から私の家まで車で20分。歩きだと1時間以上かかる道のりだ。
よくもまぁ、馬鹿は毎朝私が家を出る際に外で待ってるなぁと申し分けなく感じたりする。
「姐さん、俺、今日は何て呼べばいいのでしょうか?」
「ん? 柳さんとかかな?」
「や、柳・・・姐さん。」
「・・・今からレッスンね?」
「・・・はい。」
先が思いやられる。