第3話 鍛えられた拳の理由
「はぁ〜、なんで俺はあんな奴に好かれてしまったのだろう?」
溜息をつきながら私(いつもは“俺”だが、ややっこしいのでここでは一人称は“私”)はとぼとぼと教室を目指す。
グゥで鼻を殴ったのはやりすぎた。さすがにまずいと思い、謝りに行こうとしたらいつも通りに接してきやがった。
正真正銘の馬鹿だ。普通なら怒るだろ?
でも、あいつってば、私の事、真面目に“好き”って言ってくれた人なんだよなぁ。
・・・・はっ、いかんいかん。危うくあいつの世界に飛び込みそうになってしまった。
何なんだ? 最近はぼぅーっとしてると、すぐあの馬鹿の事が頭に浮かんでくる。
くそっ、こうなったら“男”でも作るか?
・・・いや、学校内では男なんだ。だとすれば“女”がいいのか?
んんん? 私は○ズか!?
てか、ここで私が女だと知っているのは馬鹿と担任と渡辺ティーチャーと・・・校長だけだ。どちらにしても変な目で見られるのは確実だな。
やっぱり転校しかないかなぁ?
考えているうちに教室に到着。
始業のチャイムは鳴ってしまったが、まだ先生は来ていないようだ。
「セーフ! 馬鹿のせいで減点されるところだったぜ。」
「おっ、氷見院、竜輔は?」
後ろの座席の山口和彦が話し掛けてきた。
「あぁ、まだ保健室。元気そうだったから、もう少し強く殴っとくべきだったかな?」
「ははは、まぁ、夫婦喧嘩はホドホドにね。」
「誰が“夫婦”かぁ〜〜〜!!」
とりあえず全治2週間くらいの怪我をくれてやった。
はぁ〜、あいつのせいで学校生活が辛い。
(技のバリエーションは増えてきてちょっと嬉しかったりするのだが)
どうやら、あいつが私を“姐さん”だと呼び、ベットリだから全校生徒に夫婦だの、○モだの、言われているのだろう。
あぁ、死にたい。そんな事を言われる為に男装しているのではないのに・・・。
私が男装しているのにたいした理由はない。
要は女は弱そうに見えるから。
あいつもそんな事を言っていたが、私の顔はどうも愛らしすぎるらしい。
故に何処ぞの馬の骨が寄って来るかわからんと言うことで、男装して日々鍛え、自分の身は自分で守るを心に掲げているというわけだ。
しかし、察しの通り、逆に馬の骨を寄り付かせてしまったらしい。
あぁ、今までの苦労って一体・・・。
しかし、未だにあいつの事を気にかけている自分は何なのだろうか?
この鍛え上げた拳ならばトラウマを植え付けることなど難しくもなんともないのに。
奴とは去年の秋頃からこの関係だ。
今までだって断ち切る機会は何回もあったはずだ。
なのになぜ私は・・・
「はぁーい、皆さん。授業を始めますよ。」
担任の土方先生が入ってきた。
そ、そうだ! これは神が与えてくださった試練なのですね? そうだ、そうに違いない!
強引に自分に言い聞かせながら、授業の用意をした。