第5話 エスパーは大変!?
「毎日ご苦労なこったねぇ。」
「む、何のことだ?」
クラスメイトの斎藤聡(さいとう さとし)に言われて何のことやらと思った。
「氷見院のことだよ。何でそこまで入れ込むんだ? 女ならまだしも男だろ!?」
聡は勿論、姐さんが女だと言う事は知らない。
「あの綺麗な手、顔、そして、俺に対する愛の鉄槌・・・どれをとっても完璧だろ?しかも、俺と姐さんはラブラブなんだぞ!」
「俺が言いたいのはそういうことじゃねぇ〜〜。」
「何なら、俺の心でも読んでみたらどうだ?」
聡は神通力が使えるエスパーである。
「あ、あれ使うと疲れんの! パンでも奢ってくれるか?」
「すまぬ、金欠で節約せねばならんのだよ。」
「なら、言うな。」
クラスで男友達と言ったら聡くらいだ。
それ以外は姐さんか、保健の渡辺先生と話しているから比較的友達は少ない。
とその時、姐さんが教室に戻ってきた。
先生に呼ばれていたとかなんかで席を外していたのだ。
「おぉ〜姐さん、今日も一段とお美しぶっ!」
今回は平手をくらった。
「クラスで馴れ馴れしく“姐さん”だのと呼ぶんじゃねぇ! それに今日でその言葉は2回目だっつーの!」
「あはは・・・仲の良いことで。」
「仲良くない!! っておい斎藤、何処に行く?」
「い、いや、お二人の邪魔になるのはどうかと思ったので保健室にでも・・・。」
聡よ、ナイスだ。俺は気の利く友を持って誇りに思うぞ!
「なぜに保健室?」
「いや、また幻聴が・・・吐きそう。」
そう言って聡は教室を出て行った。
「あいつ、何か持病でもあるのか?」
「ははは、そんなの俺と姐さんに気を遣ってるってだ、いっ!!・・・・・」
「二度とその減らず口をきけなくしてやろうか?」
蹴りが股間に命中した。俺はその場でうずくまる。
まさに、クリーンヒットってやつだ。しばらく起き上がれそうにない。
「そこで無様にもがいてろ。反省したら痛いの飛んで行くんじゃねぇか?」
ね、姐さん、意外とムゴイこともするんですね。
でも、そんなところも素敵です、はい。
「あぁ、斎藤君? 来てるけどぉ、今それどころじゃないみた〜い。」
俺は保健室で寝ているであろう、聡に会いに来た。
「う〜ん、母さん、駄目だって。そんなことしたら父さんがなんて言うか。
いや、マジでマズイって!! うっ・・・」
「・・・・寝言ですよね?」
「えぇ、ベッドには斎藤君しかいないはずだけどぉ〜?」
やたらデカイ寝言で、聡は苦しんでいる。いやむしろ、楽しんでいるのか?
せっかく、俺と姐さんのラブラブ伝を熱く語ってやろうと思ったのに・・・。
「伝言なら伝えてあげるけどぉ〜?」
「いえ、いいです。」
渡辺先生には聞いてもらったことだし。無理やり起こすのも邪魔になるだろう。
「竜輔〜〜〜〜、助けてぇぇぇ〜〜〜〜!!!」
カーテンの向こう側で聡が叫んでいる。
敢えて無視。生きろ、聡!
「そうだ。先生、例の物、手に入りました?」
「えぇ、手に入ったわよぉ〜。でもぉ、これって何に使うのぉ?」
「こればっかりは企業秘密ですよ!」
先生から“例の物”を受け取ると、保健室をあとにした。
ふふふ、作戦どおり。
「ねぇ竜輔、カノジョさんとキスした?」
「おう、したぞ。」
「ぶっ!!」
「何だよ、自分から聞いといてさ。」
「い、いえ、何でもないわ。そう、そうなんだ?」
「嘘だ。」
「どっちよ!?」
今俺は“こいつ”の父親が経営している老舗のラーメン屋『木城式』に来ている。
なんでって?
たまには来ないと“こいつ”がうるさいからな。本当は姐さんとディナーへ行きたかったんだけど・・・。
“こいつ”もとい、木城美佳(きじょう みか)は俺とは小学校からの幼馴染み。
バドミントン部で、勉強もそこそこ出来る。そのせいで美佳とは別々の高校になってしまった。
そして休みの日はこうして店を手伝っている親孝行者だ。
「ま、その人とラブラブなのは変わりないがね。」
「らぶ・・・らぶ。そっか、そうよね。」
かなり動揺している。
おや〜? もしや。
「美佳・・・そうか。すまない、今まで気づいてやれなくて。」
「な、何? ど、どしたの?」
「俺はてっきりお前のことただの幼馴染みだと思っていた。」
「え!? あ、あの・・・。」
「美佳・・・。」
とその時、
カランカラン
「あ、いらっしゃいませ〜。お1人様ですか?」
美佳は営業スマイルに切り替わり、今来た客に注文を取りに行った。
なぁ〜んか惜しい事したような。ま、いっか。
「美佳、お勘定。」
「はぁ〜い、650円頂きます。」
「ほい。」
「はぁ〜い、ちょうどいただきますねぇ〜。今度大声で美佳って呼んでみされ。しばくぞ、ゴルァ!!」
うわぁ〜、いつもの鬼美佳になったぁ〜。
「はぁ〜い、今度ご返事頂きにあがりますねぇ、美佳ちゃ〜ん。」
「え!? 返事って・・・あ、ちょっと!」
「じゃ〜ねぇ〜♪」
俺は店をあとにした。
いやぁ〜、あの女を茶化すのは脳の運動になっていいねぇ。
本人は満更でもなさそうだし。
まぁ姐さんを落とせなかった時(縁起でもないが)の予備軍に入れといてもいいかなぁ?
そんな呑気なことを考えつつ我が家を目指した。
誰もいないはずの家は真っ暗。
「たっだいまぁ〜!」
なんとなく言ってみた。
すると家の奥から、
「おっかえり〜♪」
はい!?
突如として暗闇から大柄の影が踊り出てきた。
「う、うひゃ〜〜〜〜〜!!!」
俺はその影にヘッドロックをかけられ身動きが取れない。
「死ぬ、死ぬ死ぬ! ギブギブ!」
「ふふふ、息子よ、もっと強くなれ!」
腕が離れてそれは図太い声を発した。
顔がやけに赤く、ビール臭い。何処にでもいるであろう中年男、これが俺の親父だ。
「親父! 今日は飲み会で遅くなるって言ってたじゃないか!?」
「おぉ、急に中止になってなぁ。なんでも今日が結婚記念日だとかで出られなくなった奴がいてな。いやぁ〜残念残念。」
「そうかい、飯は?」
「適当に食った。お前はどうせ美佳ちゃんのとこにでも行ってたんだろ?」
息子の行動パターンはお見通しってわけですか。
「そうだよ、なんか悪いか?」
親父はにんまりと笑って俺の髪の毛をクシャクシャにした。
「そうかそうか。まぁ誰と付き合おうと父さんは暖かく見守っているぞ、息子よ!」
はいはい、そうですか・・・って、
「ちょっと待て! 俺と美佳はそんな関係じゃねぇ、俺には別にだな」
「うんうん、父さんにはわかるぞ。そんなに照れんなって! 俺もお前ぐらいの時はな・・・。」
親父は高校時代の武勇伝(?)を語り始めた。
付き合ってられない。
俺には帰宅後の儀式というか習慣というものがある。
それを真っ先にやりに居間に向かう。
仏壇を開いて手を合わせる、これが俺の習慣。
「かあちゃん、今日も無事に帰ってきたよ。でさ、今日姐さんったらね・・・」
まぁ他人から見れば俺も親父も変わらない。とにかくラブラブ伝(?)を語りまくる。
言い忘れてたけど、俺の母親は俺が小学生の時に病気で死んだ。
それから2年間くらい、親父は海外出張が続いて家にろくに帰ってこなかった。
その時に世話になったのが、木城家の皆様。
特に美佳には心の支えになってもらった。だから、その恩返し(?)に時々店に顔を出して、ラーメンを食べる。
あれ? なんか話ずれちゃった? ま、いっか。
さて、宿題ちゃっちゃと終わらして早く寝よう。明日もまた姐さんと登校したいしね。
「かあちゃん、おやすみ〜。」
仏壇を閉めて自分の部屋に向かった。
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